東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2397号 決定 1992年8月11日
申立人(差押債権者) 株式会社 甲野
代表者代表取締役 乙山太郎
申立人代理人弁護士 井窪保彦
同弁護士 田口和幸
同弁護士 村山優子
相手方(債務者兼所有者) 有限会社 丙川
代表者代表取締役 丁原春夫
主文
買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載の不動産に対する相手方の占有を解いて、東京地方裁判所執行官に保管を命ずる。
執行官は、その保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。
理由
一 申立の内容等
本件は、売却のための保全処分(民事執行法五五条二項)として、主文記載の内容の命令を求める事件である。
二 記録により認められる事実
記録によると、次の事実を認めることができる。
(一) 申立人は、平成三年八月二三日本件不動産(南小岩のビルと略称する)について、競売の申立てをして、同月二六日競売開始決定(東京地裁平成三年(ケ)第一五九一号事件)を取得した。
(二) 執行官が平成三年一〇月二一日南小岩のビルの現況調査をした際、地下一階を除いて占有者がいなかった(その後地下一階の占有者も立ち退いている)。
(三) 当裁判所は、平成四年二月五日南小岩のビルの売却実施命令を発したが、同年四月二〇日の開札期日に入札がなかった。
(四) 債務者兼所有者である相手方は、平成四年一月中旬ころ市川市内の事務所を閉鎖し、そのころから債務者および代表者が行方不明となった。
(五) そして、平成四年三月ころから債務者から管理を委ねられていると称する暴力団員を名乗る人物が、申立人に立して、一定の金額(最低売却価額を下回る額)を支払うので、競売を取下げ、抵当権を放棄するよう申し入れるようになった。
(六) 債務者代表者所有の市川市所在のビル(市川のビルと略称する)も競売の対象となったが、第一回の売却実施命令が発せられた後の平成四年二月以降占有者が現われるようになった。
三 当裁判所の判断
(一) 不動産の価格を著しく減少する行為について
債務者が債務の弁済をすることができない状態であるにもかかわらず、抵当物件であるビルを他に占有させる行為は、不動産の価格を著しく減少する行為に該当し、債務者として抵当権者に対して、抵当物件の担保価値の維持に協力するべき義務に違反する行為であって、許されないものである。
本件においては、相手方の代表者は、市川のビルについて、上記のような価格減少行為を行った事実があり、また、上記のように、南小岩のビルについても、上記の価格減少行為に発展する可能性を示す事実がある。
(二) 民事執行法五五条一項の処分を省略して、二項の執行官保管命令を発令する理由について
上記のように、相手方である債務者兼所有者は、事務所を閉め、行方不明となっている。このような状態では、相手方に対して、占有移転禁止の保全処分を命じても、その実効が上がらないことは明らかである。このような場合には、民事執行法五五条一項の保全処分を省略して、二項の執行官保管命令を発令することができるものと解される。
(裁判官 淺生重機)
<以下省略>